[シネママニエラ]分離壁で囲まれたパレスチナの今を生き抜く若者たちの姿をサスペンスフルに描いた映画『オマールの壁』(英題 OMAR )で主人公のオマールを演じた俳優のアダム・バクリ[ Adam Bakri ]が初来日。端正なマスクから時折笑顔をのぞかせ、内に秘めたる思いを明かした。
超男前なアダム・バクリ初来日!衝撃のパレスチナ映画『オマールの壁』語る
現在27歳のアダム・バクリは、初主演作となる本作劇中では丸刈り姿だったが今は髪を伸ばしており、端正なマスクから時折笑顔をのぞかせ、「大きな責任を感じた。主人公のオマールが経験したことを忠実に表現することが大切で、自分が経験しているように表現することが大事だと思った」などと内に秘めたる思いを明かした。
パレスチナ人スタッフによって、パレスチナで撮影された本作は、資本100パーセント、パレスチナ産というパレスチナ初の純国産映画。「とても誇りに思っています。この作品は僕を変えた。出演できた経験はこれからも残ると思う。今は観客として、この作品を観ることができる。その記念碑的作品がアカデミー賞外国語映画賞のノミネートされたこともとても光栄」だという。
そして「初めてスクリーンで作品を観たときは緊張していて、自分の演技しかみていなかったけれど、とてもエモーショナルな体験だった。2回目にカンヌ国際映画祭で観たときも客席で父(俳優のムハンマド・バクリ)と兄が見ていたので、震えていた。感想は直接聞かなかったけれど、観終わった後の彼らの感動した目を見て、合格点をもらえたと確信した」と振り返る。
イスラエル・ヤッファ生まれのパレスチナ人であるアダムは、実際には分離壁に囲まれて育った経験がない。本作の撮影で初めて間近で壁を見て、「この映画自体が、そしてこの壁自体がパレスチナの占領の暴力を象徴している。その緊迫感たるや、物凄くエモーショナルな体験だった。視界からは空が見えなくなり、太陽が隠れてしまう大きさで、そこに立って初めて壁が持つパワーを感じた。それを毎朝起きて、見なければならないフラストレーションとか無力感には耐えられない」と吐露する。
さらに、高さ8メートルの壁をよじ登るシーンでは、「かなりトレーニングを積んでトライしたが、半分以下の3,5メートルで力尽きた。途中までしか登れなかったので、あとはスタントに任せなければいけなくて」と告白。もっとも「全部登り切ったら銃で撃たれちゃうからね。壁をまたぐシーンはセットなんだよ」という裏話を明かした。
ちなみに「次に演じたいのは、『スパイダーマン』とか『スーパーマン』いいですね(笑)」という願望もちらり。
そして必ずや議論が巻き起こるであろうラストシーン。窮地に追い込まれたオマールが辿り着いた終着点については、ハニ・アブ=アサド監督から「人生で一番ハッピーな日だと思って演じてほしい」と指示があったそうで、アダム自身も「あの時オマールは、自分自身が下した“決断”に心から納得し、そして平和を感じたんだと思う」と噛み締めるように語った。
映画『オマール壁』(アップリンク配給)は2016年4月16日[土]より角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほかにて公開
アダム・バクリ[ Adam Bakri ]プロフィル
1988年、イスラエル・ヤッファ生まれのパレスチナ人。父親は俳優で映画監督のモハマッド・バクリ。二人の兄とも俳優だったため、自然に俳優の道を志す。テルアヴィヴ大学で英語と演劇を専攻。その後、ニューヨークのリー・ストラスバーグ劇場研究所で演技のメソッドを学ぶ。研究所の卒業式の翌日に、本作のキャスティング・ディレクターにオーディション・テープを送り、イスラエルで演技テストを幾度も経たのちに合格した。本作が長編映画デビューとなる。現在はニューヨークを拠点に活動中。次回作は第一次世界大戦のアゼルバイジャンを舞台にしたアジフ・カパディア監督の新作『Ali and Nino』(2016年)で、キリスト教徒の女性と恋に落ちるイスラム系アゼルバイジャン人役で主演を務める。
映画『オマールの壁』作品情報
映画『オマール壁』公式サイト www.uplink.co.jp/omar/
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