[シネママニエラ]フレデリック・ワイズマン監督が英国の美の殿堂・ナショナル・ギャラリーに密着した、ドキュメンタリー映画『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』について、日本の国立美術館の館長らが専門家視点で語った。世界の国立美術館の今を知り、今後を考えるための貴重な機会となった。
英国ロンドンのトラファルガー広場に位置する国立美術館を舞台に世界有数のコレクションの周辺をカメラは捉えていく。レオナルド・ダ・ヴィンチ展、ターナー展、ピアノリサイタル、学芸員のトークなど、さまざま催しや名画の修復作業、普段見ることのできない美術館運営の舞台裏は実に興味深いもの。
同作の試写会とトークイベントは昨年末に、東京・国立西洋美術館で実施された。イベントには日本の国立美術館で初の女性館長となった、馬渕明子(国立西洋美術館館長)、寺島洋子(国立西洋美術館 教育普及室長)、新藤 淳(国立西洋美術館 研究員)、特別ゲストに岩井希久子(絵画修復保存家)を迎えておこなわれた。
本編を鑑賞し美術館=静寂という印象だが、本作は音があふれた美術館であるという識者ならではの視点で指摘。同館の館長らは本編の中で、画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオの名画が掲げられた展示室において、英国ロイヤルバレエ団が演目「Machina」を披露するという大胆なコラボレーションイベントを実施されていることに触れて、万が一絵画を傷つけてしまったら?というアクシデントを想像し「ドキドキ、ハラハラした」という本音を語った。保守的なイメージがある英国での革新的な取り組みは衝撃的だった様子。
「国立の美術館」とはいえ「英国と日本とは大違い。質や量が異なり、日本は至りません」と馬渕館長。しかも「館内の問題点を(作中で)さらしている」ことや、圧倒的な知名度があるにもかかわらず「さらに知名度を上げるよう努力、工夫していること」に感心を寄せていた。
そして、美術館利用者のリテラシーについても、日本では「低反射ガラスには必ず指紋が着いている(=展示品に直接ふれようとする利用者がいることを意味する)」ことも。美術館内では「私語厳禁」といった印象からか営業時間内にスタッフが解説をしていると、「しっー!」と来場者に注意を受けることがあるという。その点、英国では解説を避けたい場合は「利用者が順序を変えている」ようだと話す。
敷居が高い場所から、開かれた場所として、心のバリアフリーも含めて自らの課題として21世紀の美術館のかたちを考えていく必要に迫られていることが伺えた。
2014年 アメリカ、フランス映画/181分
原題=NATIONAL GALLERY
日本公開=2015年1月17日
配給=セテラ・インターナショナル
公式サイト http://www.cetera.co.jp/treasure/
©2014 la Biennale di Venezia
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