セイン・カミュ 大叔父アルベール・カミュを語る
[シネママニエラ]タレントのセイン・カミュが、ノーベル文学賞受賞作家アルベール・カミュの短編を原作とする映画『涙するまで、生きる』の公開にあたり、祖父母の弟で大叔父のアルベールが感じた苦悩や自身の戦地体験について語った。
「僕はアメリカのニューヨークで生まれたので国籍はアメリカです。母はフランス系イギリス人で、実の父はスコットランド系アメリカ人ですが、ふたりは若くして別れて。生後半年から一年ぐらいで、母とレバノンに渡りました。母はレバノンで日本人の父と再婚しました。育ての親は実は池田さんというんです(笑)。一時期、セイン・カミュ・池田と名乗っていたこともありました(笑)」
「(レバノンでは)イスラエルとシリアの中東戦争によって戦地化していたその真っ只中にいたので、4歳ぐらいの子供の頃の記憶としては毎朝早く起きてパンの配給をもらったり、水の配給が来るのを待ったりしていました。銃撃戦のあとに散らばっている薬きょうを拾って『今日はこれだけ拾った!』というような遊びを皆でしていました。夜でもミサイルが飛んできたのですが、子どもにはそれがきれいに見えて『恐ろしい花火』という作文を書いたこともありました」
フランス人入植者の父を持ち、アルジェリアで生まれ育ったアルベール・カミュについて。
「アルジェリアがフランスの植民地だったときに開拓のためにフランス人がアルジェリアに来たわけですが、その中にアルベール・カミュの父親がいたんです。アルベールはフランス人だけどアルジェリアに生まれ育って、母国としてはフランスだけど住んでいる地がアルジェリアなので、アルベールはアルジェリアをこよなく愛していました。だから、アルジェリアの独立戦争が起きたときに引き裂かれるような思いで、どちらを選ぶ選ばないということでとても苦悩したようです」
「(短編小説を基にした本作の映画化は)いい意味で膨らませていますよね。映画の世界にのめり込んでいける作品です。映画を通して50年前のアルジェリアに足を運んでいただいて、当時がどういう状況だったのか、そこで生きる人間にどのようなことが起きていたのかを体験してほしいです。映像化したものを見ると、何もない砂漠の風景がとてもきれいでした。朝と昼と晩の砂漠の光や落ちる影の美しさに魅了されました。内容も人間関係の描き方や人種の異なるふたりの旅を通して、大事なものは国籍なのか人間なのかということなどを考えさせられました」
主演のヴィゴ・モーテンセンは、「国籍か人間か、何が一番大切かと問われれば、それは後者だ。国籍は僕にとって決定的なものではない」とインタビューで答えている。
「いろいろな土地を巡ってきたなかで、国籍というものより地球人として生きたいと思うようになりました。学生時代は、アメリカに行けば変な外人と思われて、どっちつかずでアイデンティティについて悩んだこともありましたが、日本で育ったアメリカ人として、日本のことをよくわかっているので、アメリカに行ったときには日本の良さをたくさん伝えられる恵まれた立場なんだと思うようになりました」
日本公開=2015年5月30日
字幕翻訳=横井和子
配給=RESPECTレスペ、スプリングハズカム
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