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『野火』塚本晋也監督「危険な地域での撮影は常に緊迫感があった」

『野火』塚本晋也監督「危険な地域での撮影は常に緊迫感があった」

[シネママニエラ]第70回ヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミア上映された映画『野火』の塚本晋也監督に話を聞いた。同作は、大岡昇平著の戦争文学をベースに、第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島における極限状態の日本兵の姿について田村一等兵(塚本監督)の視点で捉えた作品。

塚本晋也監督

塚本晋也監督「戦争の現実という意味で外せない描写を追加した」

――ヴェネチアでの反応はいかがでしたか?

海外の反応はわかりやすいです。上映時の空気もそうですけれども、翌日の新聞の扱いで歴然とした差がでます。

――全編に強烈なインパクトがありました。こういった内容ですと正直賛否もあったのではないかと。個人的に特に忘れがたいのは後半の銃撃戦で、地面に飛び出した兵士の脳が、他者に踏みつぶされた瞬間に、それまで流れていた音楽が止まる!っていう描写です

実は既に完成していたものを観て、何かが足りないと思いまして、あの一連のシーンは追加したものです。ヴェネチアでの賛否はまさにそこで、あのシーンがあることで描写が激しいと言われたんですよ。「そこまで見せる必要があるのか」とも。ただ、自分的には外せない描写だと思っています。あれこそが戦争の現実なのだという意味でも。

『野火』は特別!

――監督の意図どおり、映画を観るというより戦場に放り込まれた気分になりました。本作は戦争体験者の大岡さんの原作を基にされていますが、軸にされていたことなど教えてください

僕自身は戦争体験者ではありません。両親から戦争の話を聞いたこともほとんどないんです。ですが、映画化にあたり、たくさんリサーチしました。そもそも原作との出会いは自分が高校生の時ですから、いつか映画化したいと思いながら、これまで何度もお話ししていますが資金を集められなくて、個人的な事情で制作に入れなかった背景があります。ですが、戦争体験者の方々が高齢になられていく中で、今撮らなければならないという焦りみたいなものが自分のなかにありましたし、準備段階ではいろいろなことを考えていたけれども、撮影に入ってからはとにかく必死で、ものすごく集中していたんですね。

©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

――作品からものすごい熱量が伝わってきました

ありがとうございます。戦争とはどういうことなのか。本作がきっかけとなって議論の場に使っていただけたら。映画は一定の思想を押し付けるものではありません。感じ方はそれぞれ自由です。しかし、戦争体験者の肉声を体にしみ込ませ反映させた、この映画を、今の若い人をはじめ少しでも多くの方に見てもらい、いろいろなことを感じてもらいたいのです。>>つづく

日本映画/87分
英題=FIRES ON THE PLAIN(2014)
日本公開=2015年7月25日
配給=海獣シアター
©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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『野火』塚本晋也監督「危険な地域での撮影は常に緊迫感があった」

――さて、原作の舞台はフィリピン・レイテ島ですが、本作の海外ロケについてお話しください

©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

同じフィリピンのミンダナオ島で撮りました。主にジャングルの実景と自分が演じる田村のシーンですね。渡航者は4名だけで、あとはコーディネーター、エキストラなど、全て現地でまかないました。撮影をしたのは危険な地域だということで、ボディガードを雇わざるをえなかったんですね。そういう緊迫感が常にありました。スタッフとして機材を自ら運ばざるを得ないので、それだけでクタクタでした。(それで劇中では死んだ目になっていたのですね)死んだ目ですか(苦笑)、意識してそうなったわけではないです。痩せた兵士の状態である為に食事を制限していたことが影響しているのかもしれません。

――田村一等兵の転機となる出来事が起きる、十字架のある会堂は実在するのでしょうか

実在します。現地の方々による聖なる場所ですので、ちゃんと許可を得て、撮影していたのですが、日を追うごとに現地の方がザワついている感じがして。最低限必要な画を撮りおさめて3日で引き揚げました。あれ以上続けていたら感情を害していたかもしれなかったので。あまり気づかれないのですが、会堂での最もショッキングなシーンは、日本で撮ったものです。

――あのシーンで登場する現地の女性はどのように配役したのですか

どの作品でも登場人物は事前にイメージがあります。あの女性はfacebookやツイッターで募集をかけました。フィリピンに精通している協力者がいて、最終的にはその人が見つけてくれました。すばらしい女優さんです。

©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

――ハワイのカウアイ島にも行かれていますよね?

色彩豊かな自然を求めて行ったのですが、期待していたほどいろいろな種類の景色がなかったのであせりました。でも映画に出てくる最も広いシーンや、大きすぎる椰子の木など、南国を強調した風景をおさめることはできました。

――個人的に、こういう戦争を描いた作品は作り続けられるべきだと思っています。大岡さんの原作はほかにもありますし、戦争を題材にして再び作品を撮るお考えはありますか?

この「野火」が特別だったので、他に戦争映画を作ろうとは思ってはいませんでした。でも今度の製作過程でめぐりあった中で、映画にしたらいいだろうな、というものはだいぶありました。たくさん作れるタイプの監督ならいいんですが。

映画『野火』は2015年7月25日[土]よりユーロスペース、立川シネマシティほか全国順次公開

塚本晋也監督

塚本晋也監督
1960年1月1日生まれ。東京出身。14歳で初めて8mmカメラを手にし、88年に映画『電柱小僧の冒険』(87)でPFFアワードでグランプリを受賞。劇場映画デビュー作となった『鉄男 TETSUO』(88)が、ローマ国際ファンタスティック映画祭でグランプリを獲得し、以降、国際映画祭の常連となる。俳優としても活動しており、02年には『クロエ』、『殺し屋1』、『溺れる人』、『とらばいゆ』の演技で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。遠藤周作原作×マーティン・スコセッシ監督『SILENCE(原題)』(2016年全米公開予定)にも出演している。

日本映画/87分
英題=FIRES ON THE PLAIN(2014)
日本公開=2015年7月25日
配給=海獣シアター
©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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