[シネママニエラ]36歳という若さで世界三大映画祭を最年少で制覇したファティ・アキン監督。2009年のヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞とヤングシネマ賞の2冠に輝いた、映画『ソウル・キッチン』のプロモーションで初来日! さっそくお話を伺ってきました。
本作は、ドイツのハンブルグにあるレストラン“ソウル・キッチン”を舞台に、ギリシャ系ドイツ人兄弟の弟を軸に、彼の周囲の人々との関係性を映してゆくもの。『愛より強く』でベルリン映画祭グランプリ、『そして、私たちは愛に帰る』でカンヌ映画祭脚本賞し、日本にもファンが多い監督だけに、本作での作風の変化を問う記者が多かったそう。
◆他人の言葉に惑わされず、自分のやりたいことを!
そのことについてアキン監督は述べました。「『ソウル・キッチン』の脚本は、『愛より強く』より前に書いていたもの。カンヌで受賞し皆さんに定着した作風のイメージを崩したくないとも考えていました。ただ、それを説明するにはものすごく時間がかかるが端的な表現をするならば、精神的に疲れたことと、プロデューサーでもある親しい友人のアンドレアス・ティールさんが、『そして、私たちは愛に帰る』の撮影中に亡くなったことが大きな理由。彼とは製作会社のコラソン・インターナショナルを立ち上げました。友人の死後1年ほど立ちあがれずにいたのですが、彼の「他人の言葉に惑わされず、自分のやりたいことを!」という助言を思い出し、この作品を作る気持ちになったのです」
だからこそ、映画『ソウル・キッチン』は、「ライフスタイルについて描いたパーソナルな映画だと言えます。僕は12歳頃からクラブで遊び、夜の世界の音楽やファッションをよく知っていました。今は、夜遊びしませんので(笑)。そういった生活への決別の意味も込めています」とコメント。
◆マジョリティの中のマイノリティはソウルやR&Bに共感する
レストランが舞台なだけに料理も見どころだが、同じぐらいインパクトを残す劇中曲について、教えてもらった。
「私の好きな音楽ばかりを詰め込んだわけでなく、この映画の音楽って何だろう?と考えた時に、ハンブルグは“ソウル・タウン”ですから、アフロアメリカン系のソウルミュージックがぴったりだった。音楽がアイデンティティを示すんです。ドイツは英米に占領されていたので英米の影響がとても強く、ハンブルグの「スタークラブ」でザ・ビートルズは人気者になったんですよ。この映画のキャラクターには移民系が多く、各自がバックグランドを持っています。マジョリティの中のマイノリティにとって、ソウルやR&Bは共感できるのです」
映画『ソウル・キッチン』予告編
英題=SOUL KITCHEN
日本公開=2011年1月22日
配給=ビターズ・エンド
公式サイト http://www.bitters.co.jp/soulkitchen/
©Julie Minami
【試写コメント】
ファティ・アキンが監督・脚本・プロデューサーを兼ねた本作は、愛さずにはいられない作品でした。主人公はトラブルに見舞われるのだけれども、鑑賞後には『かもめ食堂』的なほっこり感に包まれるという、ファティ・アキンの真摯さが伺える良作ドラマです。ということで、本年、第1号の溺愛×偏愛映画に認定!
ファティ・アキン[Fatih Akin]
1973年8月25日生まれ、ハンブルク出身のトルコ系ドイツ人。映画監督・脚本家・俳優・プロデューサー。1998年に初監督作品『Kurz und schmerzlos』でロカルノ国際映画祭で入賞。『愛より強く』『太陽に恋して 』『クロッシング・ザ・ブリッジ/サウンド・オブ・イスタンブール』『そして、私たちは愛に帰る』が日本で劇場公開されている。