[シネママニエラ]映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』( 原題 ST.VINCENT )で監督・脚本・製作を兼務したセオドア・メルフィがインタビューに応じ、主演俳優のビル・マーレイについて「気前のいいスターで彼こそ聖人。出会いそのものに喜びを感じている」などと、その魅力を語った。
――ビル・マーレイへの出演交渉に半年を費やしたそうですね?
どうしてもビル・マーレイに演じて欲しかった。彼がヴィンセント役にぴったりだと思ったんだ。俳優としての彼をとても好きだったしね。彼がイエスと言った時、キャスティングは終わったも同然だった。
脚本家や監督がビル・マーレイを望むのと同じくらい、俳優たちもビルと共演したいはずだからね。ビルはそういう人さ。ビルがうなずいたと聞くと、メリッサ(・マッカーシー)も脚本を気に入って共演したがった。ナオミ(・ワッツ)やクリス・オダウドも同じだったよ。そうやって、みんなうまく収まったんだ。
――実際にビル・マーレイとお仕事されてみていかがでしたか
ビルと一緒に仕事をしていて、彼こそが‘聖人’なんだと気がついたよ。今まで出会った中で、最も心の広い人物だと思う。いつでも、誰とでも立ち止まって話をするんだ。街の人々や退役軍人、消防士などと何時間も話をして、写真を撮っていた。この上なく気前のいいスターだよ。まるで‘聖人’だ。惜しみなく自分を捧げられる。「そんな時間はないよ」なんて言わない。写真や握手も断わらない。人と出会う機会も同じだ。面白いかどうかは関係なく、出会いそのものにビルは喜びを感じているんだと思う。それが彼の人間的な魅力だと思うよ。
――ビルと対峙する子役のジェイデン・リーベラーがこれまた素晴らしかったですね!
ジェイデンは飛び抜けた子だ。人間性の面では、小さなビル・マーレイといったところ。スタッフや共演者のことを理解し、どう反応すべきかが分かっている。飾らない演技の仕方を知っている。無理をしないんだ。いつでも落ち着き払って静かにそこにいる。その冷静さは大人もまねできないよ。
――その母親役がメリッサ・マッカーシーだというのも意外でした
確かに彼女はコメディが得意だし、世界的にもそれで知られていがドラマティックな演技も驚くほど奥深いんだ。だから彼女はどんな役柄でもこなせるんだよ。
本作が見せているのもメリッサ・マッカーシーという氷山の一角でしかないよ。
――さらにナオミ・ワッツがこういう役という驚きもありました!
ナオミが演じるダカというキャラクターは、基本的にこの作品のコメディ要素でこの映画の中心なんだ。ロシア出身の売春婦で、口が悪く態度も大きいが、すごく生真面目な人。
(製作総指揮の)ハーヴェイ・ワインスタインが、何度もナオミ・ワッツを薦めてきた。私は最初、ナオミ・ワッツはすばらしいと思うが、この役は彼女向きじゃないだろうと思った。簡単な役じゃない。すると彼は、「自分を信じてくれ」「とにかく信じてくれ」と何度も繰り返し た。そして強引に決めたんだよ。いや、それは冗談だけど(笑)。
もともと好きな女優だしね、彼女に会って、1時間ほどお茶をした。そのときメリッサに感じたのと同じものを感じたんだ。ナオミ・ワッツには、観客や映画業界の知らない面がたくさんあるんだとね。それに彼女はとても愉快な女性だったんだ。
――クリス・ オダウドはいかがでしたか?
その場にいるだけで、とにかくすばらしい俳優だよ。今はテレビシリーズに出演していて、この撮影には4日間しかスケジュールを割けなかった。赤い目をして撮影現場に来てもらって、12時間とか14時間、時には徹夜でぶっ続けで撮影したよ。あれほど効率良く、見事に役を演じきれるのは、彼以外にいなかっただろう。「ああ、クリス・オダウドでよかった、ほかの俳優だったらどうなっていただろう」とみんな思っていたよ。言葉では言い尽くせない俳優さ。
――最後に、本作のテーマと作品に込めた思いをお聞かせください
この映画は、とある男が友人になった少年を通して自身の価値に気づかされる話だ。そしてヴィンセントは理解するんだ。今の自分にも、これまでの人生にも意味があったんだと。悪いこともしたけど、いいこともした。みんなの面倒を見た。妻を愛した。国を守った。戦争に従軍して人々を守った――そんな風に考える。年月を重ねる内に彼の心は厚い殻に覆われてしまった。でも心の奥底では、いい人間なんだよ。
「自分は何も成していない、自分の人生は無駄だった」と考えているような、普通の人々を描いた映画なんだ。この映画はそれに異議を唱える。どんな人間にも価値があるんだとね。それがこの映画で言いたいことだ。
アメリカ映画/102分
原題=ST.VINCENT
日本公開日=2015年9月4日
字幕翻訳=石田泰子
配給=キノフィルムズ
公式サイト http://www.vincent.jp
©2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク ブルックリン区出身。本作が長編監督デビュー作となる。