映画『ブリッジ・オブ・スパイ』コラム
世界が戦争勃発の恐怖に怯える中、平和の鍵を握っていたのは、ひとりの普通の男だった――。原題はThe bridge of spiesではなくBridge of Spiesとしたことからスパイの懸け橋といったところか。
スピルバーグが監督、トム・ハンクスが主演、それにコーエン兄弟が脚本というゴールデントリオのタッグ。しかも実話を基にした作品というだけで、本作への期待値はぐぐーんと上がるのは言わずもがな。
で、その期待を裏切られることはなかった。
オープニング、鏡にはスパイ映画とは無縁とおぼしき中年男性の姿が。何をしているのだろうかと思わせる。このシーンは、単純に自画像を描いているだけなのだが。
ジェームズ・ドノバン弁護士は偉業を成し遂げた人物というのが鑑賞直後の感想だ。しかし、ほどなくして人としての基本がしっかりした人だと思えた。彼の行動規範は合衆国憲法にのとって「すべての人は平等」というもにあったのだから。
ドノバンの行為を「敵…」「…敵」と非難する人々からは集団心理の怖さも感じ取れる。あげくにドノバンの自宅(妻や娘が在宅!!)を銃撃するなんて輩も。一方、そのようなことは「無知な人がすることだ」と彼を励ます人もいたのは救い。
グリーニッケ橋(=統一の橋 )でスパイを交換する。本作でのスパイ交換の比率は2人:1人というつり合いのとれないもの。それを交渉相手が東・西で異なるため、ドノバンの頭脳戦と交渉術が冴えていく。その過程はスリル満点だ。
ドノバン役を演じられるのはトム・ハンクスのほかにいないだろう。だからこそスピルバーグ監督は「完璧な配役」と公言したし、ルドルフ・イヴァノヴィチ・アベル(ロシア語 Рудольф Ива́нович Абель,本名ウィリアム・フィッシャー)役で助演のマーク・ライランスも印象に残る。
アベルの内心に気遣いを見せるドノバン。その度に発せられるアベルの言葉が深い。
James Donovan: Aren’t you worried?
Rudolf Abel: Would it help?
スパイの覚悟といったところか。ちなみに、のちにソ連郵政当局がアベル氏の切手を発行していることも何とも何とも。
【映画で知る世界】として一人でも多くの人にすすめたい映画だった。
映画『ブリッジ・オブ・スパイ』(20世紀フォックス映画 配給)は2016年1月8日[金]よりTOHOシネマズスカラ座ほか全国公開