映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』コラム
映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は投資銀行、格付機関、米政府の裏をかいて、自身の読みを信じた変わり者(褒め言葉)たちの物語。しかも、実話!
ブラッド・ピットが、妻で映画監督のアンジェリーナ・ジョリー推しの俳優を、自身の製作会社の映画で起用しているという側面も見受けられる作品。内容が硬派なため、映像は遊び心を取り入れている。実際、コメディに分類した海外サイトも。ブラッド・ピット主演×コーエン兄弟の映画『バーン・アフター・リーディング』風なチャラい説明が挿入されるのだ。
知っていると思っていて知らないことの怖さ
130分かけて、世紀の空売り(原題 The Big Short )と呼ばれる大相場をはった真意と顛末が明かされていく。知らないことがこわいのではなく、知っていると思っていて知らないことの怖さが浮き彫りになる。
財務諸表の精読だけで市場の歪みに気付いた金融トレーダーのマイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)。その目利きで信用され、他人から多額の資金運用を任されている。そんな彼が債務担保証券(Collateralized Debt Obligation 以下、CDO)のゆがみに気付くことから物語は展開する。彼は強い責任感もあって、その危機で損失を出さないための回避策を模索。空売り(読み:からうり|英:short selling)を用いる「クレジット・デフォルト・スワップ(Credit default swap、以下CDS)」という金融取引に目をつける。
住宅所有者のローンが破綻すると、CDS買付者が利益を得る金融商品。視点を変えると、他人の不幸で儲けるということ。
引換(スワップ)取引と思わせる商品名が重要なカギ。保険料を支払う固定金利付きの契約なので、当該債の破綻前は金融機関に保険料を支払わなければ契約を保持できない。資金繰りに苦慮するシーンもあるのはそのため。なのでマイケルが手書きしているホワイトボードの最上部に、自社の損得が表示される。読みが当たったというのに、振り子が揺れ動かないもどかしさも。
マイケルがCDS契約を申し出た時点で、投資銀行、格付機関、米政府らが「破綻」を読んでいなかったのか、少々疑問は残った。契約の場にいた人間には知らされていなかったのだろうが、そもそも商品の成り立ちに疑問を抱いたからだ。金融商品=サブプライム・ローンは、当初はプライム・ローンで強者が儲けて、それにならった弱者から搾取することが真の目的だったようにも感じられたので。
だからこそ、人生を通して「正義を説く」キャラクターのマーク(スティーブ・カレル)が苦悩するのはそこ。
ブラッド・ピット扮するベンが、青年ジェイミー(フィン・ウィトロック、アンジェリーナ・ジョリーの監督作となる伝記映画『アンブロークン 不屈の男』のマット役。ジュリアード学院出身)と相棒チャーリー(ジョン・マガロ、映画『キャロル』のダニー役。映画『アンブロークン 不屈の男』出演)をしかりとばすのは、彼らが将来の利益に目を奪われて、その陰で嘆き悲しむ人が大勢いるかもしれないことを気に留めないから。
歴史は繰り返す。これは過去の出来事だと言いきれないだろう。なぜならば本編最後のクレジットに、この金融破綻に懲りることなく、次の金融商品=サブプライム・ローンが異なる商品名で売りにだされていること。既に今、ニュースでもとり上げられている。
自身で判断ができない場合等は、決して踏み入れてはならない領域があるのだと、改めて警鐘を鳴らす必要があると思う。
映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(東和ピクチャーズ 配給)は2016年3月4日[金]よりTOHOシネマズ日劇ほか全国公開
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