[シネママニエラ]名匠ジャック・オディアール監督が、2015年カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドール受賞した映画『ディーパンの闘い』で主人公ディーパン役を演じたアントニーターサン・ジェスターサンの起用理由を明かした。
ジェスターサンは、スリランカ内戦の元兵士。16歳でタミル・イーラム解放の虎(LTTE)に入隊し、訓練を受けて19歳まで少年兵として戦っていた。その後逃亡先のタイで4年間を過ごし、25歳で政治亡命を申請。1993年にフランスに辿り着き、現在は作家として活動しているという。
本篇の冒頭で、フランスに逃れたディーパンが、難民審査を待つ間、街で観光客相手にキーホルダーなどを売る様子が描かれているが、ジェスターサンも同様に、スーパーマーケットの店員からユーディズニーのホテルのベルボーイまで、様々な職を渡り歩いたそうだ。
オディアール監督は「オーディションの時、アントニーターサンの傷だらけの肉体に宿る、ある種のチャーミングさ、無頓着さに惹かれて彼を選んだ。ただ早い段階で、それだけではだめだと気がついたんだ。彼とは違う立ち姿、もっと堂々たる雰囲気が必要だった。ゴミ箱を押して移動させる時も、戦士のように押してほしかった。管理人のようにではなくね」と話す。
そのため現場での演出方法も異なった。「言葉で理解しあえないというのは素晴らしいことだ。演技指導という決まりごとが空疎に思えるほどの事を学んだよ。それにプロの俳優ではない彼らは、シナリオに根ざすよりも、その場で自然にやりとりをしながら作っていったほうがやりやすかったように感じたんだ。現場で彼らの意見に耳を傾けながら作品を作り上げていったんだ」
「彼は自分の人生の50%です。最初の50%は、ディーパンが生きている状況に関して。彼が向き合っている問題は自分が直面したものとおなじでしたから。違った50%というのは彼がこの状況に対してとった行動です。もし自分だったら違う行動をとっていたでしょう。ディーパンの中には、まだ内戦の兵士のメンタリティーを持っています。彼の中にはまだ凶暴性が残っている。私はフランスに来る前に、兵士としての人生はスリランカに埋めてしまいました」
映画『ディーパンの闘い』あらすじ
元兵士のディーパンは、内戦下のスリランカを逃れ、フランスに入国するため、赤の他人の女と少女とともに“家族”を装う。辛うじて難民審査を通り抜けた3人は、パリ郊外の集合団地の一室に腰を落ち着け、ディーパンは団地の管理人の職を手にする。日の差すうちは外で家族を装い、ひとつ屋根の下では他人に戻る日々。彼らがささやかな幸せに手を伸ばした矢先、新たな暴力が襲いかかる。
映画『ディーパンの闘い』(ロングライド配給)は2016年2月12日[金]よりTOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマほか全国公開
公式サイトwww.dheepan-movie.com/
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