<ハナレグミ × 是枝裕和監督>映画『海よりもまだ深く』ティーチインイベント
[シネママニエラ]6月1日、大ヒット公開中の映画『海よりもまだ深く』の劇中音楽を担当し主題歌も歌うハナレグミと是枝裕和監督とのティーチインイベントが実施され、音楽と映画にまつわる話しをたっぷり語った。
ハナレグミが歌う本作の主題歌「深呼吸」のミュージックビデオは、池松壮亮さんを主演に是枝監督が本作のサイドストーリーを描いたものとなっているなど、映画からコラボレーションが続いているふたり。
永積崇(以下、永積さん):こうやってまた監督とお話しする機会ができて本当にうれしく思います。今日は楽しんでいってもらえたらと思います。
是枝監督:たくさんの人にお集まりいただいて本当にうれしく思います。音楽を担当してくださった方とこうやってお話しする機会はあまりないのでたっぷりお話ししたいのも山々なのですが、今日はみなさんの質問に答える形で色々やりとりさせていただこうかなと思います。
その質問は、実は(樹木)希林さんにも聞かれていまして、通信簿に”子供らしい伸びやかさに欠ける”と書かれていたんですけど、それを伝えたら「それいいわね~」と笑われて、その後ことあるごとに突っ込まれていました(笑)学級委員も当たり前のようにやっているような子供らしくない子供だったので、やんちゃをしている友達が羨ましかったですね。映画に登場する真悟(阿部寛演じる良多の息子)は僕となんとなく似ています。周りの大人のことをよくみている感じが近いと思います。
父親似とよく言われるんですが、”居方が汚い”ってお袋によく言われるんです。父は家の中でステテコによれよれのTシャツ姿でグターって寝転がっていたりするんですけど、あ~これか、と思ったらちょっと胸が苦しくなりました・・・(笑)
最近は、歳のせいなのか枕の匂いがちょっと・・・父と似ているときがあるんですよね・・・加齢臭とは言いたくない!
僕が音楽を担当することが決まった段階で、映像はほぼ出来上がっていたので、それを何度も見返してつくっていきました。それで思ったのが、僕がわかったつもりで何かをいうことはできないなと。最後に良多が振り向いて、一歩踏み出す前に考えたことは何かということを、この一曲の中でいえたらいいなと思ったんですよね。
あと、最後までタイトルは迷っていたんですが、最後に良多が背筋を伸ばして硯をするシーンで、人って変わろうと思った瞬間に深く呼吸するんだな~と気付いて。それで、「深呼吸」がいいと思ったんです。それがひらめいたときに、もうこれしかないと思ってつけました。
この映画は、背中を丸めて生きている男が、一瞬背筋を伸ばすまでの話だと思っていたんです。そこをちゃんと汲み取ってタイトルをつけてくれていたことを知らなかったので、先日そのお話を聞いたときにすごい感動してしまいました。本当にとても良いコラボレーションをさせていただけたなと思います。
難しいな・・・つくることに繋げていうならば、色んな人を観察することかもしれないですね。例えば、飛行機で隣の席に座っている男性がいて、彼はこれからどこにいってなにをやるんだろうと考えながら観察するのは面白いですね。少ない情報から想像を広げて。そんなことを想像されていると思ったら本人は嫌でしょうけど(笑)断片を切り取った中に、なにが見えてくるかというのは結構好きかもしれません。
母親の人生と全く違う内容を歌った歌が良いと思っていたから、恋愛の歌が良いなと。だったら、テレサ・テンだと思ったんですね。大ヒット曲からちょっとだけ外れているのもいいなぁと。ストーリーを考える前に、歌詞の一部を切り取ってタイトルにつけたんです。そのタイトルに合わせてシーン1から書いていくという、今回はちょっと面白いやり方でした。
シングル「深呼吸」のカップリング曲として「別れの曲」をカバーしているんですけど、この曲はとても女性的なのでどうやって歌えばいいのかすごい考えました。YouTubeで女性歌手の歌を歌っている男性を色々みていたら、石原裕次郎さんとか勝新太郎さんとかみんな歌おうとしていないというか、ありのままなんですよね。なので、ある意味裸で挑みました。だから今までのレコーディングの中で一番緊張しましたね。
向田邦子さんや山田太一さんの脚本でつくったドラマというのが、自分が作り手になってからもDNAとして、自分の中の柱としてあります。今回はホームドラマだったから、自分の中にそれらのDNAを意識しながらつくりましたね。「岸辺のアルバム」という名作中の名作ホームドラマがあるので、よかったら是非観てみてくださいね。
僕は親が聞いていた曲をよく聞いていたので、それが井上陽水さんとかビリーバンバンとかいわゆるフォークソングでした。それとマイケル・ジャクソンが同時に来ていた世代なんですよ。なので、フォークソングと洋楽というのが自分の中のフィルターを通してある感じですかね。
聞かれれば答えますというスタンスですね。気持ちをきちんと説明するのがあまり好きじゃないんです。いろんな監督がいますけど、僕は役者さんからあがってきたものを修正していくという方が、発見があるんですよね。
監督はどういう感じがいいですか?とこっちが聞いても、終始、うーん・・・イイ感じになりそうですよね~ってだけで、すごい困りましたね(笑)僕も、バンドメンバーとかに質問されてもちゃんと答えるタイプではないので、みんな戸惑うわけです。その戸惑っている顔をみるのが面白い(笑)でも、自分がやられるとドキドキするものでしたね(笑)
母親がつくってくれていたというのが一番大きいのかな・・・夜中にお腹をすかせて帰るとカレーうどんを出してくれたんですよね。でも夜中にカレーってちょっと重たいし、でもせっかくつくってくれたのに食べないのも申し訳ないし・・・といった記憶が残っているんです。まぁ、シャツに汁を飛ばしたいというのもありましたけど(笑)でももし、劇場にカレーうどんが販売していたら、みなさん映画観終わった後に絶対食べると思います(笑)
冒頭で良多が駅内の立ち食い蕎麦屋で春菊天玉蕎麦を食べているのもおいしそうでした!
あそこの春菊天玉がうまいんですよ!個人的な思い入れですね。
僕は味噌汁ですかね。一番味をわかりすく思い出せるというか。
「自分にとっていろいろな経験をさせてもらいました。今回の仕事で自分がどういう音楽をやりたかったのかというのがわかった気がして、すごい嬉しかったです。何気なく流れる時間を切り取るのが好きなのですが、今回は映画を観ながら自分のことを反芻していて。そういうメッセージの在り方ってあってもいんだなとわかったんです。この映画から教わりました。監督、ありがとうございました」
「明快なメッセージがないものをつくりたいと思っていて、今回は、撮っているもの全てが、いつかなくなってしまうという哀惜というか愛情をもって撮っているつもりなんです。それが映画から伝われば、それが一番のメッセージかなと思っています」
映画『海よりもまだ深く』 ハナレグミ「深呼吸」ミュージックビデオ
映画『海よりもまだ深く』(ギャガ配給)は2016年5月21日[土]より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開