[シネママニエラ]映画『日本で一番悪い奴ら』の公開を控える、白石和彌監督が6月4日、第一線で活躍する映画作家の声が聞ける人気イベント「Meet the Filmmaker」に登場したところ、元受刑者の方より「僕は(半面教的な意味で)受刑者に見せたほうがいいと思う。監督からぜひ(刑務所)にプレゼンを」と求める声があがり、白石監督は持論を披露したうえで「プレゼンしてみます」と応じた。
日本警察史上の最大の不祥事と呼ばれる「稲葉事件」をモチーフに描かれる、稲葉圭昭著の「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)をベースにした本作。この日は、本作も含め白石監督の長編作品のすべての劇中音楽を担当しており、今年の日本アカデミー賞で優秀音楽賞を受賞した作曲家の安川午朗氏をゲストに迎え、綾野剛主演の映画『日本で一番悪い奴ら』の誕生秘話や劇中音楽、原作者の稲葉氏などマル秘エピソード満載のトークを繰り広げた。
白石和彌監督:この企画は、脚本の池上さんがとある有名なスター俳優主演の企画を出さないといけない状況でたくさんプロットを出していた中の一つでした。さすがにそのスター俳優の企画には当てはまらず、そこでプロットを読んでほしいと言われたのが始まりでした。シリアスに見せるのは『凶悪』でやりきったので、次はエンターテインメント作品をやりたかったんです。よりエンターテインメントに寄せることを意識しました。この作品は、ギャング映画にしたかったんですが、日本でギャング映画というとヤクザ映画。それはちょっと違うなと。このプロットを見て、警察を主人公にしたらギャングになるんだと気づきました。マーティン・スコセッシ監督作品でいうと『ウルフ・オブ・ストリート』よりも『カジノ』のほうが参考になりましたね。(キャスティングには)男っぽさと色っぽさがあったほうがいいなと思い、綾野(剛)くんに依頼しました
安川午朗:稲葉さんご本人の写真を見せていただき、「リアルに青春を謳歌していた犯罪者の青春ムービーなんですよ」とキーワードをくれて、そこから音楽を作り始めたんです。(綾野が扮する諸星の新人時代、彼が悪に染まる覚悟を決めて名刺を配りまくるシーンの音楽に触れ)中近東の音楽は、死生観がすごくある。死が裏側にあって、それを受け入れられる人たちには、そういう音楽があるのかなと
おっさんの時期を演じる際には、『加齢臭がほしい』ってずっと言っていて、撮影前日は焼き肉を食べて、朝歯をみがかなかった。映画を見ると、そこが生きていると感じると思います。『歯垢がほしい』とずっと言っていましたから。すごいですよね、普通なら思いつかないです
この作品が刑務所にいる人たちによいか分かりませんが(笑)世の中がインモラルなものに蓋をして終了になっている。そうじゃなくて、必要なものは見せるべき。インモラルなもの、不道徳なものを観て、学んでいくことが必要。両方知ってどう判断させていくのが教育だと思います。プレゼンしてみます(笑)
「テレビや映画が当たり障りのない表現が多くなっている。クリエイターは皆、振り切ったことをしたいんです。師匠(若松孝二監督)の言葉ですが、『観客にナイフをつきつけるような映画をつくらないといけない』と思っています。映画ってまだまだ可能性があって広がりがあって、イマジネーションと野心があればまだまだメッセージを届けられるコンテンツだと思っています。頑張って日本映画を含めて社会を盛り上げて行ければと思います。この作品は単純に楽しめる映画になっていると思うので、ぜひ劇場で観てください」
映画『日本で一番悪い奴ら』(東映=日活配給)は2016年6月25日[土]より全国ロードショー
公式サイト http://www.nichiwaru.com