世界的撮影監督クリストファー・ドイルが監督を務めた、映画『宵闇真珠』についてインタビューに応じた。
本作は、香港の片隅にある漁村を舞台に村を訪れた異邦人との出会いにより、世界を知る少女の物語。ヒロインの少女役を演じるのは、アンジェラ・ユン。そして、少女と出会う異邦人役に、ワールドワイドに活躍する実力派オダギリジョー。
クリストファー・ドイル監督「映画『宵闇真珠』は見ることについての映画です」
——共同監督のジェニー・シュンとはどのようにして作業をしたのでしょうか。
「準備はすべて彼女がやってくれました。自分が若い監督とやる時は、まず彼らがアイデアを持っていて、彼らとコミュニケートしていくなかで自然に映画が生まれます。とても自由な現場でした」
——物語のどんなところに惹かれたのでしょう。
「ジェニーが自分の心に忠実に書いた作品で、それがとても気に入ったんです。長い間、彼女は香港から離れてアメリカで暮らしていて、香港に戻ってきて香港を再発見した。それが彼女にとっての大事なことでした。自分にとって大事なものに対して忠実に作品を作る人に私は敬意を払っているし、いつもそういう人と一緒に仕事をしたいと思っています。自分が信じているものに忠実でれば、それがどんなことであっても他の人も共感できるはずだから」
——アンジェラ・ユンはいかがでした?
「ライトやカメラで女優を美しく撮る、そうすることで彼女達を祝福するのが私の仕事です。それは自分にとってひとつの愛情表現で、セックスよりも素晴らしいも素晴らしい(笑)。ほかの女優たちと同じようにアンジェラとの間には信頼関係があって、それは日常生活で得られるものとは全然違う関係でした。私が女優を愛することで、彼女の気持ちが私に伝わって、それを映像で表すことができるんです」
——アンジェラにもオダギリさんにも、極力演技をしないように演出されたそうですね。それはどうしてなのでしょうか。
「映画はキャスティングがとても重要です。特別なエネルギーを持っていて、歌舞伎役者のような大きい演技はしなくても、ただそこにいるだけで映画になってしまう役者がいます。そういう役者と、良い空間、良いストーリーがあれば映画になる。そういう意味で、映画はすごくシンプルなものなんです」
——「良い空間」といえば、物語の舞台になった漁村大澳の風景も印象的でした。
「大澳からは、すごく刺激を受けました。自分にとって空間はとても重要です。私は映画の撮影技術をちゃんと勉強したことはありませんが、いろんな国を旅して、その土地や空間からエネルギーや物語を感じるという経験を積んできました。カメラの技術というよりは、その場所のエネルギー、“気”みたいなものを感じることがすごく大切なんです。映画というのはエネルギーをシェアするものであって、技術的なものではないと思います」
——劇中では、カメラオブスクラやピンホールカメラなど「見る」というイメージが散りばめられていますね。
「この映画は〈見る〉ことについての映画なんです。よそから来たハンサムな異邦人が、少女の本質を見抜く。別世界から来た人であるからこそ、彼女の本当の姿が見ることができるんです。それが少女に自信を与えて、彼女は自分を肯定できるようになる。この映画は、観客に〈他の人と違うのは素晴らしいことなんだよ〉と伝えているんです。今の世の中、香港でも日本でも〈他の人と違うから素晴らしい〉と言われて、それを素直に受け入れられる若者は少ないかもしれません。でも、オダギリさんが演じたような素敵な人物から、〈他の人と違うから素晴らしい〉と言われると嬉しいんじゃないでしょうか(笑)」
——そうですね(笑)。確かにそれは自信に繋がると思います。
「誰もが〈本当の自分をわかってほしい〉という願いを持っています。すべての女性の心の中に、この物語の少女がいるんじゃないでしょうか。青年は少女のことを〈君は特別だ〉と言って去ってしまいますが、それは彼女がとり残されて一人になるということではなく、しっかり自分と向き合えるようになるということなのです。そして、それがすごく難しいことだということを、この映画を観て感じて欲しいですね」
僕たちの世代からすると、ウォン・カーウァイとクリストファー・ドイルって避けては通れない存在なんですよね。1990年代の映画の象徴というか、彼等の映画から本当にたくさんの刺激や影響を受けました。クリス(トファー・ドイル監督)の現場は、即興的なものやハプニングも含めて何でも受け入れて楽しむような、とっても自由で創造性豊かな現場でした。
私は台本に従って演技をするだけですが、クリストファー・ドイル監督はライティングについて試行錯誤を繰り返していました。例えば、どの紙が最も光を効果的に映し出し最高の結果を出すか、様々な紙にライトを当てて確かめるんです。私にとって、そんな現場は初めてでした。
映画『宵闇真珠』(キノフィルム 配給)は2018年12月15日[土]よりシアターイメージフォーラムほか全国順次公開