映画『トイレット』

【溺愛×偏愛シネマ】『トイレット』独自の世界観が支持される荻上直子監督

ニュース 溺愛×偏愛シネマ
あ
もたいまさこの存在感が抜群!
©2010″トイレット”フィルムパートナーズ

[シネママニエラ]『トイレット』は、カナダを舞台にし、日本人のばーちゃん(もたいまさこも)と風変わりな外国人の3兄妹(アレックス・ハウス、タチアナ・マズラニー、デイヴィッド・レンドル)との同居生活を描く物語。独自の世界観が支持される荻上直子監督が構想に約5年を費やしたという。『かもめ食堂』では、フィンランドでオールロケを行った、その経験を生かし2009年9月からカナダのトロントで撮影をした作品だ。フリと落ちが何度も組み込まれ、独特のゆるーい雰囲気がなんとも心地いい。

荻上監督の最新作は、“トイレ”がモチーフだと知った時。“へぇ”と思いつつ、筆者が思いだしたのは、スチュアート・ヘンリ著『はばかりながら「トイレと文化」考』という本だった。ヴェルサイユ宮殿にトイレがない話、尿療法、レディ・ファーストのはじまり、といったトリビア満載であり、そのお陰で多様性を知り、海外旅行に対する免疫づくりに役だった本でもある。

物語は、祖母(日本人)母(故人)3人の孫(クォーター=四分の一だけ異国の血が混じっている人)の状況を映す。母の葬儀後、各自の生活は変わらざるをえなくなっている。特に次男のレイは、皆から頼られまくり。オタクな彼には荷が重いのだが……。なぜ長男ではなく次男に役割が?と思うものの、もちろん事情があってのこと。

母が亡くなる間際に日本から呼び寄せた祖母。まったく英語を話さないため孫と理解を深められないでいる。かといって、そのことを悩んでいる風もない。そんなだからか、「本当に親族か?」という疑問を抱き、兄妹の忠告を無視してDNA鑑定を試みる孫も。実は、その鑑定結果にも勘違い&想定外の落ちを用意。ラストも含め、一見、タブーに思えることを笑いに昇華させてゆく……。

祖母に英語を学ぶようになどと強要せず。だからこそ祖母の発した“たった一言”が活きる。また、家族の中の“変わり者”をイジるわけでもなく、そのままを受け入れている。するとフツーに思えてくる。家族の関係もいろいろあって当たり前、だと。そして物語の前半で抱いた家族の中の“変わり者”という印象も、生活を追っていく過程の中で、その対象者が次第に変わっていった。人の印象なんてそんなものかもしれない。誰かにとってはヘンな人という印象でも、よく知ればフツーに受け止められるようになる。荻上直子監督は、生命体としての基本的な行為(=排泄=トイレット)であるにも関わらず、避けられがちな話題を作品のタイトルに据え、文化と多様性を見事に表現してた。

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日本公開=2010年8月28日
配給=ショウゲート、スールキートス
公式サイト http://www.toilet-movie.com/
©2010″トイレット”フィルムパートナーズ

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